ワーマッド

ピーター・ガブリエルが1980年に設立した世界音楽・芸術・ダンスのフェスティバルブランドであり文化団体で、ワールドミュージックというジャンルの形成に貢献した。

ワーマッド

概要

ワーマッド(WOMAD, World of Music, Arts and Dance)は、英国出身のミュージシャン、ピーター・ガブリエル(Peter Gabriel)が1980年に設立した国際的な音楽・芸術・ダンスのフェスティバルブランドであり、文化団体である。世界各国の伝統音楽と現代音楽を同じ舞台に上げ、異なる文化を紹介し交流を促進することを目的としている。今日、ワーマッドは英国をはじめ、オーストラリア、ニュージーランド、スペイン、チリなど複数の国で毎年恒例のフェスティバルとして運営されており、「ワールドミュージック(World Music)」というジャンルが大衆的に定着するうえで決定的な役割を果たしたと評価されている。

主な内容

設立の背景と名称

ワーマッドの名称は「World of Music, Arts and Dance」の頭文字を取ったものである。1970年代後半にジェネシス(Genesis)を脱退したピーター・ガブリエルは、アフリカ・アジア・ラテンアメリカの音楽を英国大衆に紹介するプロジェクトを構想し、1980年に音楽評論家のトム・ニューマン(Thomas Brooman)らとともにワーマッドを創設した。名称自体に「音楽だけでなく芸術やダンスまでをも包括する」という設立の哲学が込められている。

最初のフェスティバルと初期の歴史

1982年7月、イングランドのサマセット州シェプトン・マレット(Shepton Mallet)にあるロイヤル・バス・アンド・ウェスト・ショーグラウンドで最初のワーマッド・フェスティバルが開催された。多数の世界各国のアーティストが参加した大規模な催しだったが、財政的には困難を抱え、その後組織を立て直しながら英国国内での巡回開催や海外進出を模索した。1980年代を通じて、ワーマッドは単なる祭典を超え、アーティストの発掘や教育プログラムを運営する非営利性格の文化機関へと成長した。

性格と特徴

  • 多文化主義:一国のジャンルにとどまらず、アフリカ、中東、アジア、ヨーロッパ、アメリカ先住民の音楽などを幅広く招請する。
  • 教育・公共性:ワーマッドはフェスティバル以外にも、学校・地域社会を対象としたワークショップ、楽器体験、講演プログラムを運営してきた。
  • 非主流アーティストの登竜門:西欧ポピュラー音楽市場であまり知られていなかったミュージシャンに国際舞台を提供した。ユッスー・ンドゥール(Youssou N'Dour)、ヌスラト・ファテー・アリー・ハーン(Nusrat Fateh Ali Khan)、ラヴィ・シャンカル(Ravi Shankar)、サリフ・ケイタ(Salif Keïta)、アンジェリーク・キジョー(Angélique Kidjo)などがワーマッドの舞台を経て世界的な知名度を得た。
  • 非営利運営:ワーマッド・リミテッド(WOMAD Ltd)は、商業的な大型ロック・フェスティバルとは異なり、文化交流とアーティスト支援を優先する運営方式を維持してきた。

主な開催地

英国本土のフェスティバルは複数の場所を移りながら開催され、2000年代以降はウィルトシャー州のチャールトン・パーク(Charlton Park)を主会場として定着した。海外では、オーストラリアのアデレードで行われるWOMADelaide、ニュージーランドのニュープリマスで行われるWOMAD New Zealand、スペインのカセレスで行われるWOMAD Cáceres、チリ・イタリア・日本などで開かれる催しが代表的なものである。各地域のフェスティバルは、現地の音楽家やコミュニティを積極的に参加させるという共通の原則を共有している。

世界音楽産業に与えた影響

ワーマッドは、1980年代後半に「ワールドミュージック」というマーケティング・ジャンルの用語が形成される過程において中核的なプラットフォームであった。レコード会社・放送局・フェスティバルが協働し、非西欧圏の音楽を紹介する流通構造を生み出し、その後グラストンベリーなど大型フェスティバルがワールドミュージックの舞台を常設編成するうえでも影響を与えた。

最新の動向

2020年代に入り、ワーマッドは新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより中止や縮小を経験した後、2022年以降は通常開催を取り戻した。近年は以下のような変化が顕著である。

1. 持続可能性:環境に配慮したフェスティバルを標榜し、使い捨てプラスチックの禁止、再生可能エネルギーの使用、炭素排出削減策を拡大している。

2. 世代交代とジャンルの拡張:伝統音楽中心のラインナップに、ヒップホップ、エレクトロニック、ジャズ・フュージョン、K-ミュージックなど現代的なクロスオーバー・アーティストを併せて配置する傾向が強まった。

3. デジタル・アクセシビリティ:公演の一部をオンライン配信・アーカイブで公開し、パンデミック以降の観客層の拡大を図っている。

4. 地域フェスティバルの強化:アデレード、ニュージーランド、カセレスなど海外の開催地が独自のブランドとして成長し、現地の文化政策と結びついた祭典として定着した。

5. 文化多様性の議論との結合:移民・難民・少数文化をめぐる社会的な議論のなかで、「相互理解」を掲げたワーマッドの設立理念が再び注目されている。

ワーマッドは単一の祭典を超え、世界音楽をめぐるネットワーク、教育、記録の中心軸として機能しており、文化多様性と公共文化政策を論じる際にしばしば引用される事例となっている。

関連トピック

  • [[ピーター・ガブリエル]]
  • [[ワールドミュージック]]
  • [[グラストンベリー・フェスティバル]]
  • [[文化多様性]]
  • [[舞台芸術]]