不法行為
概要
不法行為(不法行爲、tort)とは、故意または過失により他人の権利や利益を侵害して損害を生じさせる違法な行為をいう。民法第750条は「故意または過失による違法行為によって他人に損害を与えた者は、その損害を賠償する責任がある」と規定し、契約関係のない当事者間においても損害賠償責任を認める一般原則を定めている。刑法上の犯罪と異なり、不法行為は国家の刑罰権ではなく被害者の損害填補を目的とし、刑事責任と民事責任は互いに独立して成立し得る。
主要内容
不法行為の成立要件
民法上、不法行為が成立するためには、大きく分けて五つの要件が満たされなければならない。第一に、加害者の故意または過失がなければならない。過失とは、通常人が要求される注意義務を尽くさなかった状態を意味し、善良な管理者の注意の程度が基準となる。第二に、行為が違法でなければならないが、権利侵害が直ちに違法性を推定するのが判例の立場である。
第三に、行為と損害の間に因果関係が存在しなければならず、第四に損害の発生が前提となる。損害には財産的損害だけでなく、精神的苦痛に対する慰謝料も含まれる。第五に、加害者に責任能力(民法第753条〜第755条)がなければならず、未成年者や心神喪失者は原則として責任を免除されるが、責任無能力者の監督義務者には別途の責任が生じ得る。
契約責任との区別
不法行為責任は、契約上の債務不履行責任と区別される。債務不履行は特定の当事者間の契約関係を前提とするが、不法行為は契約関係のない第三者に対しても成立する。ただし、同一の行為が双方の責任を同時に構成する場合には請求権の競合が問題となり、判例は被害者が有利な請求権を選択できるとしている。
特殊な不法行為
民法は一般原則のほか、特別な責任類型を規定している。使用者責任(第756条)は、被用者が業務の執行中に加えた損害について使用者が賠償責任を負う制度であり、使用者が相当の注意を尽くした場合にのみ免責される。工作物責任(第758条)、動物占有者責任(第759条)、製造物責任(製造物責任法)なども代表的なものである。また、共同不法行為(第760条)では、数人が共同で加えた損害について連帯して賠償する責任を負う。
損害賠償の範囲と消滅時効
損害賠償は通常損害のほか特別損害も含むが、特別損害は加害者がその事情を知り、または知り得たときに限られる(民法第763条、第393条)。不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、原則として被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った日から3年、不法行為の日から10年である(民法第766条)。ただし、生命・身体の侵害の場合には時効期間が延長される特例が議論されてきた。
刑事責任との関係
不法行為のうち、刑法が定める構成要件を満たす行為は犯罪となり、刑事処罰の対象となる。例えば暴行は、民法上の不法行為であると同時に刑法上の暴行罪に該当し得る。刑事裁判で無罪が宣告されても、民事上の損害賠償責任が必ずしも免除されるわけではない。証明責任の程度(刑事は合理的疑いを超えた証明、民事は証拠の優越)が異なるからである。
最近の動向
2024〜2025年には、デジタル環境における不法行為が主要な争点として浮上した。オンライン上の名誉毀損・侮辱、ディープフェイク性搾取物の流布、個人情報の無断利用などに対する損害賠償請求が急増しており、プラットフォーム事業者の共同不法行為責任の有無が活発に争われている。2024年にディープフェイク性犯罪の処罰を強化する法案が施行され、刑事責任とともに民事上の慰謝料請求も増える傾向にある。
また、人工知能(AI)生成物による権利侵害、自動運転車事故の責任主体、医療過誤に対する賠償基準など、新たな類型の不法行為が議論されている。懲罰的損害賠償制度の拡大適用範囲や、気候変動・環境汚染に対する国家および企業の不法行為責任を認めようとする訴訟も国際的に増加している。国内では、チョンセ詐欺(전세사기)・ボイスフィッシング(보이스피싱)など大規模な財産犯罪の被害者に対する救済策や、繰り返される悪質な苦情・ストーキングに対する損害賠償判決が積み重ねられる様相である。
関連トピック
- [[民法]]
- [[刑法]]
- [[損害賠償]]
- [[製造物責任]]
- [[消滅時効]]
- [[ディープフェイク]]
- [[名誉毀損]]